河川の分野では古くから氾濫解析を実施し、洪水ハザードマップの整備もしてきました。そしてその多くは上流側で降った雨に対してダムや河川堤防で対策するといった外水氾濫を想定したものです。しかし東海豪雨以来、記録的な豪雨、あるいは都市型水害と言われるものが多発するようになり、下水道の分野を中心に内水はサードマップの整備が進みつつあります。

 しかしながら各ハザードマップの作成は、河川系と下水道系が必ずしも一体化しているわけではなく、関連技術者として視野の広い情報が得にくくなっています。そのようなことから本ページは、近年注目がますます高まっている「氾濫 解析」に関する情報のポータルサイトを目指して運営されています。
 

ゲリラ豪雨と氾濫解析

 近年ヒートアイランド現象等により、極めて短時間に1時間100mmを超える豪雨が局所的に発生 しています。この現象はゲリラ豪雨と呼ばれ、市街地が水害に見舞われるケースも増加しています。
 これらの水害の多くは、河川堤防の破堤や越水による氾濫(外水氾濫)ではなく、市街地などで水路や下水道があふれておこる浸水(内水氾濫)が多いのが特徴です。 河川だけ考えていても特に市街地の浸水被害は防げないことが現実的に解ってきており、河川技術者だけでなく、下水道技術者や都市計画技術者などがこれまでの枠を超えて対応する必要性が生じています。
 
浸水被害は、その原因から次の2種類に分けられます。
・外水被害 堤防が切れたり、川から水が溢れたりなど、川の水が原因で発生する浸水被害
・内水被害 川が満杯で地区内の水が川に排水できなかったり、排水路の整備が不十分で、川に入るまでに生じる浸水被害

 技術者サイドだけでなく行政でも対応は変わってきています。
 これまで進められてきた河川、下水道といった個別分野毎の取り組みではなく、都市全体で、河川と下水道が連携して水害に対応していく都市型水害対策強化に取り組み始めています。

 一方従来の治水対策や水害対策では、河川、下水道を別個に解析しており、地表面雨水流出、下水管路網内の管路流、河川流を一つの雨水排水システムとして評価する実用的な 検討手法やシステムは 確立されていませんでした。大手のゼネコンやコンサルタントが独自の検討手法を考えたり、海外の検討システムを持ち込んだりしていて、行政サイドもこれといった決めを持っていませんでした。

■日本国の解析エンジンNilimの登場

 国の最高研究機関である国土技術政策総合研究所では、下水道を考慮した氾濫現象(下水道管路内から地表面への溢水、地表面での湛水または流下、地表面から下水道への流入からなる複雑な水理現象)を合理的にシミュレートできる「NILIMモデル」を構築しました。 「NILIM」とは国土技術政策総合研究所そのものの略称であり、かなり力を入れたプロジェクトであったと言えます。

 ではこのNILIMモデルとはどんなものなのか?
 NILIMモデルは、 大別して河道モデル、氾濫モデル、下水道モデルに分かれ、河川からの破堤・溢水に起因する外水氾濫、下水道からの溢水による内水氾濫、これらを組み合わせた内外水複合氾濫までのあらゆる水理現象に対応することが可能となっています。下水道管路からの溢水が地表面を流下して拡散する現象と、下水道管路の流下状況を判定して再び下水道管路へ戻る現象を解析することができる最新のエンジンがNILIM2.0なのです。

 ○国総研資料 第202号 「都市域氾濫解析モデル活用ガイドライン(案)−都市浸水−」
 (国総研ページへ直リンク)

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NILIM2.0 都市域氾濫解析モデル

                      ※国土技術政策総合研究所HPから引用

◆ポイント1 下水道管路を考慮した氾濫現象への対応
 下水道を考慮した氾濫現象は、下水道管路内から地表面への溢水、地表面での湛水または流下、地表面から下水道への流入からなる複雑な水理現象です。

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※国土技術政策総合研究所HPから引用

 NILIMモデルの大きな特徴は、このような下水道管路からの溢水が地表面を流下して拡散する現象と、下水道管路の流下状況を判定して再び下水道管路へ戻る現象を解析することができる点にあります。

 最新のNILIM2.0では、大別して河道モデル、氾濫モデル、下水道モデルに分かれ、河川からの破堤・溢水に起因する外水氾濫、下水道からの溢水による内水氾濫、これらを組み合わせた内外水複合氾濫までのあらゆる水理現象に対応することが可能です。


NILIM2.0 構成モデル
 


下水道モデルと地表面氾濫との関係

※国土技術政策総合研究所HPから引用

 
◆ポイント2 下水道管内の流れ、マンホールからの噴き出しを再現

intoro※国土技術政策総合研究所HPから引用

 下水道管内は開水路流れ、圧力流れを考慮しており、マンホールからの噴き出し→内水氾濫の過程を再現することが可能です。NILIMモデルは、国総研において地表面氾濫水と管路内水位との関係を水理実験により確認しており、この実験係数により、マンホールからの溢水量・流入量の算定を行っています。
 
◆ポイント3 氾濫原における様々な構造物をモデル化

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※国土技術政策総合研究所HPから引用

  NILIMモデルでは、氾濫原を表すメッシュ上に様々な構造物や排水施設をモデル化することが可能です。これによって構造物による氾濫水の移動阻害や水路等による流水の移動、排水機場による河川への排水等の氾濫水の水理状況への影響を考慮することが可能であり、河道や下水道への行き来も考慮できます。
 
◆ポイント4 解析結果を容易に確認できるインターフェイス

 

  このシステムは簡易なインターフェイスを備えています。解析結果の湛水状況、管路水位、河川水位等を確認できるほか、複数の計算ケースの入出力ファイルを管理する機能を持っています。
 

入出力ファイルの管理 

人孔水位の時系列図

            
 

管路水位の縦断図

河川水位縦断図(時系列図、最高水位)

 
 

雨量の時系列図(入力データ) 

雨量の適用域図

 
 
 

■下水道不要の解析エンジン(X-Okabe)徳島から登場

 徳島大学環境防災研究センターで下水道整備率の低い地域をや地方都市を想定した「X-Okabe」モデルが構築されました。「X-Okabe」では「NILIM」では必須であった下水道が整備されていない地区においても氾濫解析が行えるように開発がなされており、内水氾濫解析については「NILIM」よりも適用範囲が広く汎用性に優れていると言えます。

 「X-Okabe」モデルの特徴としては内水氾濫モデルに特化しており、そのなかに排水路モデルと下水路モデルを備えています。NILIMでは一旦下水道にすべての降雨が集まって、溢水した場合に地表面が氾濫すると言うモデルですが、「X−Okabe」では最初から地表面に降雨を降らせて解析を行うモデルとなっています。もちろん、排水路への流入出・下水路への流入現象も解析対象です。

 
■X-Okabeのストロングポイント
 

◆ポイント1 下水道管路が整備されていない区域でも解析可能
 

NILIMモデルでは下水道が整備された地域を前提にエンジンを構築しているため、下水道が未整備の地域を解析しようとすると、氾濫が起きない結果となってしまいます。「X-Okabe」では下水道が整備されていない地域を主眼に開発を行っており、NILIMモデルよりも汎用性の高い作りとなっています。 


 

◆ポイント2 潮位を考慮したモデルで解析可能


 X-Okabeでは標高が低い土地や海抜0メートル地帯など潮位の影響を受ける区域の氾濫解析で、潮位を考慮したモデルを作成して解析を行う事が可能です。なお、潮位のデータは気象庁のホームページから入手できます。

Photo by (c)Tomo.Yun


 

◆ポイント3 氾濫原における様々な構造物をモデル化


    X-Okabeモデルでは、NILIMモデルと同様に解析区域をメッシュで表現し、そのメッシュ上に様々な構造物や排水施設をモデル化することが可能です。排水路や下水路は地表面との水の交流、盛土は氾濫水の移動の制限、排水ポンプや下水ポンプは計算外領域へ排水、潮位メッシュには潮位を設定することにより潮汐を解析に反映させることが可能です。
 

 
◆ポイント4 解析結果を容易に確認できるインターフェイス

 

  このシステムは簡易なインターフェイスを備えています。解析結果の湛水状況等を確認できるほか、複数の計算ケースの入出力ファイルを管理する機能を持っています。
 

標高データのグラデーション表示 

地目データの着色表示

            
 

建物占有率の着色表示

潮位の時系列図(入力データ)

 

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